実践報告:文学の含意への想像力を育む単元

対象は中学1年生。時数は7コマです。学校の方針で、原則すべての文章に演習形式で触れています。

導入:米津玄師「Lemon」と高村光太郎「レモン哀歌」(1)

この単元の導入として、詩から入ります。米津玄師の「Lemon」はクラスの大部分が聞いたことがある様子でしたが、しっかり意味を考えた人は少なかったようです。

この中から「Lemon」の最後の「切り分けた果実の片方の様に/今でもあなたはわたしの光」の部分を引用して、その意味を考えてもらいます。

この「切り分けた果実」というのがレモンを指し、そこから「光」を思い出すのは、レモンを半分に切ったときの断面の様子が放射する光を想像させるということに気がついてほしい。もちろんヒントを与えずに気がつくのは、クラスに1人か2人。

ここから「この歌の中でレモンという果物は何を象徴しているか」という話をし、「象徴」という概念に触れる。もちろんこの答えは一義的に決められるものではない。

さらに高村光太郎「レモン哀歌」で、同じレモンという果物でも別のことを象徴することがあると教える。そして、その記号的関係は偶然のものだと教えたが、これは蛇足だったかもしれない。

安部公房「鞄」(1)

安部公房の「鞄」に中学1年生で触れるのは難しい。ただ、話の筋を追えれば良いということにして、話の筋だけをとにかく追う。その上で、鞄という道具が何を象徴しているのかに触れる。

ほとんどのクラスで、生徒の発言から「自由によって不自由がもたらされることの象徴」や「不自由によって自由がもたらされることの象徴」といったコメントが出るのだが、このあたりで頭の中は混乱している。それは次のコマで少し具体的になるのでこのままで良い。

安部公房良識派」(1)

青山学院中の2017年の入試問題に安部公房良識派」からの出題がある。高校の教科書への掲載もあるのだからその真髄は深いところにあると言えなくもないのだが、前回導かれた抽象的なコメントが、少し具体化して理解されるようになる。

それと同時に寓話という概念に触れる。

星新一「友好使節」(2)

星新一の「友好使節」から2コマ。1コマ目で前半、2コマ目で後半を読むことにしていたのだが、先が気になる展開で、1コマ目が終わった段階で「宿題にしていいから最後まで読ませてくれ」と生徒たち。

とりあえずこの物語が、ホンネとタテマエを使い分けることでかえって事態をややこしくしている社会情勢を風刺しているのだということに気がついてほしい。

また、宇宙人が最後に言うセリフが、地球人のタテマエの正確な裏になっているのだということにも触れる。きわめてテクニカルに書かれているセリフなので、丁寧に抑える。

『伊曾保物語』(1)

 

そこから『伊曾保物語』へと入る。古文の導入を兼ねるのだが、そもそもそれほど難しい内容でもない。ここでもう一度寓話に触れる。

終末:論述試験(1)

最後に試験で締めます。

小松左京「戦争はなかった」、芥川龍之介蜘蛛の糸」、村崎羯諦「余命3000文字」の3本を印刷した冊子を事前に渡しておいて、「それを分析しなさい」という課題を出すことを明らかにしておく。

依然の休暇時の課題で、同じく「分析しなさい」という課題を出したことがあるので、一応慣れてはいるはず。ただし試験前の質問はどんな質問も構わないということにしてあったので、「分析ってどうすればいいですか」というような質問もあった。

そういうときには「感想をはっきりと書いて、その原因を考えたり、特徴的な表現の効果を考えよう」と伝えておく。印象批評の第一歩。

これが問題1。問題2では「象徴」や「記号」の意味を具体例と共に答えさせる。記号を選んだ子はほとんどいないので、ほとんどが「象徴」を選ぶ。具体例も「ハトは平和の象徴」と「天皇は日本国の象徴」ばかり。

問題3では「寓話」と「風刺」の意味を答えさせる。この試験は、何を持ち込んでも良いということにしてあるので、国語辞典を持ち込んだ生徒たちが辞書通りの説明を書き写すのだが、それだけでは満点をつけない。自分なりの解釈が入っていれば、少しそれにケチがつくくらいでは減点せず、点数を与える。

問題4は、斎藤亜矢『ルビンのツボ』からの出題。

筆者がかつて公園の砂場の砂を食べてしまったときに、その不快感と恥ずかしさから嗚咽し、「砂のじゃりじゃりに塩味がくわわった。」というように書いてある。この「塩味がくわわった」というのがどういうことかを答えさせる。

答えはもちろん、「涙が出てきた」ということなので、「涙」か「泣いている」という言葉が入っていたら満点を与える。

総括

とりあえず文学作品と読むときの武器として使えそうな「象徴」「寓話」「風刺」、このあたりをさらいました。

まあすぐに身につくとも思っていないので、この先も何度もこのあたりのタームをくり返してだんだん刷り込んで行こうと思います。